小林裕介さん×細谷佳正さん×浪川大輔さん
『アルスラーン戦記 風塵乱舞』最終回アフレコ後座談会
ーーさきほど最終回のアフレコを終えた直後ですが、今の率直なお気持ちはいかがでしょうか。
浪川 ここは殿下からお話いただきましょう。
細谷 そうしましょうか。殿下!
小林 じゃあ……はい、殿下です(笑)。そうですね……本当に、率直な気持ちをいうと「速っ」です(笑)。全8話のシリーズというのは初めてだったんですけど、通常の1クールよりも4話分少ないだけで、こんなにも作品が終わるのを速く感じるのかと。「あともうちょっとやりたかったな」と口惜しいような気持ちも感じつつ、短くはありましたけど、充実した作品になったのではないかと思っています。
ーー細谷さんはいかがでしょうか。
細谷 最終話の最後のセリフがアンドラゴラスの「ヤシャスィーン!」だったので、僕の中では、「ああ、ここで『アルスラーン戦記』に戻ってきたな」みたいな感じがありました。海側の街で、海賊とかを相手に戦っていたのは、自分の中ではちょっとなれない感じがあったというか。ダリューンがタンクトップのような服を着ていたりして、「黒衣の騎士」感みたいなものがあんまりなかったように思うんですよね(笑)。しかも今回は、ナルサスの過去にスポットがあたっていたこともありましたし。海のナルサスの物語から、陸の殿下の物語に帰ってきたな、みたいな印象がありました。
ーーでは、そんなナルサス役を務められた浪川さん。
浪川 シリーズが始まったときに感じたのは、「殿下、すごく成長されましたな」ということでした。そして終わってみると、「王都奪還には間に合わなかったなぁ……」という気持ちに(笑)。1期が、王都奪還に向けて一丸となるところで終わったじゃないですか。そして今回も、「さあ、王都奪還をしに行くぞ!」っていうところで終わってしまいましたからね。もちろん、今回のシリーズも大事なエピソードではあったんですけど、やっぱり大きな目標を達成するところまでやりたかったな、というのが正直な感想ではあります。1期よりもアルスラーンの仲間たちはとても結束が固まったというか、力強い団体になりましたので、ここからが見せどころなんだろうな、という気もするんです。それを見たいな、と。また、個人的にこの殿下の行く末を見てみたい……そんな気持ちがあることはたしかですね。
ーー1期から2期まで演じて来られて、キャラクターの印象で変わったところなどあればおうかがいしてみたいです。
小林 アルスラーンはもう完全に、1期で王としての自覚、器をほぼほぼ完成させた状態で、2期では発する言葉にも説得力や力強さが増していましたね。僕も演じながら度肝を抜かれるシーンがいっぱいありました。そして最終的には、ナルサスやダリューンまでも驚かせるような決断を自分でくだすまでに至った。できあがっていたと思ったところから、またひとつ上のステージへ登ったんですよね。また、そこにちゃんと付いてきてくれる仲間たちとの絆も感じることができるというのは、最初のころのアルスラーンから変わったところかなと思います。
ーーダリューンは三人の中でいちばんぶれない印象がありますが。
細谷 いや、でも作品を見た上だと、自分としては全然印象が違いますね。1期はナルサスが父親、ダリューンは母親みたいなところがありましたよね。ナルサスが世の中の仕組みや、王としてのルールを教える。それに対して、ダリューンは精神的な補佐みたいなところがあった。でも2期に関しては、アルスラーンがもう成長してしまっているので、戦闘員に特化していった感じがありましたね。「家臣とはこうあるもの」みたいな、代名詞的な役割をしていたなと、振り返ってみて思います。父親に追放されて、アルスラーンがひとりで旅に出たときに、家臣がついてくる。その家臣たちの真中にいる、「アルスラーンの忠実な家臣たち」という存在の持っている、色を担っていた。一個人というよりも、ひとつの群れの代表、みたいな存在になっていたように思います。
浪川 僕としては、ダリューンがなんだか柔らかくなったイメージを受けていました。背中を預ける人間も増えたし、よく笑うようになったな、と。それをいったら殿下もそうで、高笑いなんかをしちゃったりして、全体的にアルスラーンと仲間たちは明るくなったのかな、と。
ーーナルサスはいかがでした? 2期では、ストーリーの中心になることも多かったですが。
浪川 今まではどちらかといったら、殿下とダリューンの関係性がクローズアップされていて、ナルサスはふたりのための枠を作るような役目だったと思うんです。ナルサスが事態の枠組みを作り、その中でふたりが結果を出してくれる、みたいな。そこが今回は、ナルサスの個人的な事情や、感情が表に出る場面が多くて……たしかに、すごく人間らしくなりましたよね。ただの切れ者じゃなくて、人間らしさが見えた。お芝居においても、1期のときは相手に言わせるだけ言わせてから、一方的に斜め上の切り返しをする感じだったんですけど、今回は同じ土俵でぶつかる感じがあって、役者としてより楽しかったです。
でも……役の基本的な考え方はそんなに変わってないと思います。キャラに肉付けされたというか、これまでとは違う側面がクローズアップされただけ、殿下やダリューン、他のメンバーによって、役の間口が大きくなったのだろう、と。ダリューンもナルサスも、成長とかそういうことではなく、殿下の歩幅に合わせて変わっているという感じかな。
細谷 ああ?、その感覚、わかります。
浪川 殿下より先にわれわれが大きく変わるということは、たぶんないですよね。殿下が変わるからわれわれも変わる。追い抜こうと思えば、追い抜けるふたりですから。ファランギースとかギーヴもそうかもしれない。殿下の周囲にいるのは、もともと仕上がっているメンバーなんです。でもそこで、一緒に歩いて行くことを選んでいる。それが臣下というもので、そこにドラマがあるように思います。たとえば、1期のときは、知らない者同士が出会って、どうなっていくんだろう? というところにドラマがあった。でも今は同じ方向をむいて、同じ目標に向かっている。さらに、今は、殿下が先頭で舵をとる感じにもなった。その違いが、キャラクターの描かれ方に大きな変化を与えているのかなと思います。だから殿下の進むスピードが速くなったから、われわれも大きく変わったように見えるところがあるのかな、と。
ーーではここからは、2期の印象的だったシーンについて聞かせてください。
細谷 僕は第2話の、アルスラーンがアンドラゴラスに一人で五万の兵を集めて来るよう命じられたとき、その知らせを聞いたダリューンが「事実上の……追放ではないか!」と言ったシーンが、非常に印象に残ってます。言いたくても言えない、みたいな芝居をしたのは、そこだけのような気がするんですよね。全体を通して。1期のときは自分が正しいと思ったら絶対に王様にも進言していたけれども、それを言わずにいる。そこの我慢している感じが、思い出すと、おっ、と思うところでした。
浪川 追放されたアルスラーンに付いて行くところいいよね。
細谷 第3話のみんなが自然と集まってくるところ?
浪川 うんうん。のほほんと暮らそうと思えば暮らせる状態にある仲間たちが、特に話し合いをすることもなく、それぞれに殿下に付いていくことを決めているあたり。ダリューンはちょっと単純だから「どうする? どうする?」みたいな感じになっちゃってましたけど(笑)。
細谷 でもそのあと、殿下に言ういちばんいいセリフをダリューンはかっさらっていくという(笑)。「我ら、殿下のお叱りも国王陛下のお怒りも覚悟の上で、自分達の生き方を定めたのでござれば、どうぞお供させていただきたく存じます」って。
ーー浪川さんの印象に残ったシーンは?
浪川 シャガードとの絡みは演じていて面白かったです。ああいう関係性って、今の世の中でもよくあることだと思うんです。古い友達に「お前、変わったな」と感じるようなことって。それにシャガードだって別に、あの世界の価値観で見たら、すごい悪人というわけではない。そんなところも面白かった。
ーー殿下がシャガードを奴隷に落としたあとの、なんともいえないナルサスの姿が印象的でした。
浪川 ナルサスもちょっとは揺れるのかな、と感じるところでしたね。揺れていて、でも表には出さない。それが隙とか、弱点になることもわかっていますからね。本当はもうちょい揺れたかったんだとは思うんですけども、そこを見せずに、にじみ出るぐらいにとどめるように演じました。
ーー小林さんは2期で印象に残ったシーンは?
小林 みんなが追放された殿下に付いてきてくれたシーンは、僕もやっぱり嬉しかったですね。
細谷 あそこで殿下は、「みんな」で済ませずに、ひとりひとりの名前を呼ぶじゃないですか。部下を大事にしてる感がすごく出ていて、よかったな、と。
小林 あとは殿下がくだす決断というのが、1期よりも重みがあったんですよね。それこそシャガードに対して、「奴隷としてみじめな生活を送ってみるがいい」と言い下すところも、そんなことを考えるのか、と驚かされました。
浪川 厳しいよね。1年とはいえ、奴隷をやれって。
小林 でも、実は演じる前にふと思ったんですよ。アルスラーンが王都奪還して王になったら、奴隷制度をなくす。そうすると、この罰って意味なくなっちゃうんじゃないかなって。
ーーあ、たしかに。
小林 でもそこもアルスラーンが考えてないことはないと思うんですよね。ひと月だろうがふた月だろうが、奴隷に身を落とすというのは、今まで普通の身分だったものにとっては地獄でしょうから、それでいいんだ、と。単に悪意で下した罰ではなく、ナルサスのことを思ったり、ナルサスの友だからきっと改心してくれるという確信があっての言葉だったんだろうな、と。そこまで考えて、あのセリフは言いました。意外といろんなことを考えているんだと思うんです、彼は。そんなこともあって、第7話のシャガードとのシーンは好きですね。
ーーでは最後に、1期、2期と演じてこられて『アルスラーン戦記』とはみなさんにとってどんな作品だったのかを聞かせてください。
浪川 個人的には、王都奪還しないことにはまだ「旅の途中」という意識で、振り返っている場合じゃない(笑)。殿下が王になる日まで、ぜひみなさんに作品を応援していただきたいです。まずはこの、短いですけれども、内容の濃い2期を楽しんでいただけていたらうれしいです。どのエピソードもそうですが、今回もまた、殿下の成長にとっては絶対になくてはならない話で、そういう点も含めて、観終わったときに「よかったな」と思ってもらえていたら。
細谷 どんな作品かぁ……超個人的な話になりますけど、『アルスラーン戦記』以降に、やる役が変わってきたんですよ。
浪川 おっ、見た目が黒い役ばっかりになった?
細谷 いや、筋肉ゴリゴリの役や、強い役が増えたんです(笑)。ダリューン役に決まったとき、今以上に若造だったこともあって、勇気あるキャスティングをしていただいたという気持ちがあったんですよね。それにくわえて、戦記もの、歴史ものとしてもっとお客さんのハードルを上げた作りにもできる作品なのに、万人に受け入れられるように、すごく気を遣って作っている感じも印象的だった。そういう役、そういう作品に関わらせていただいたことで、役者としての流れが少し変わった。役者としての自分の年表を書くとしたら「『アルスラーン戦記』以降」という項目を加えたい。それくらい、自分にとって転機になった作品です。
小林 僕も細谷さんとかぶっちゃうんですけど……これまで、僕の人生には転機がふたつあったんです。ひとつは声優になったことなんですが、もうひとつ、声優になってからの転機といったら、絶対にアルスラーンを演じたことだと思うんですね。
細谷・浪川 おお?!
小林 本当にまだデビューしたてのころにいただいた役だったので、今思うに、僕とアルスラーンは最初のころ、似たような存在だったな、と。で、アルスラーンと出会って、半年間演じた中で、彼も成長したし、僕も成長できた。そして今回、2期でまたアルスラーンを演じるにあたって、彼の成長した姿に、僕のその後の声優としての成長を乗せられたと感じているんです。そして、もし3期があるんだったら、絶対にまた、成長した僕と成長したアルスラーンで、相乗効果を出すことができると思います。そういう風に、同じスタートで始まって、役と僕が同じように成長していく、不思議な作品です。
ーーアルスラーンの歩みと小林さんの歩みは重なっているんですね。
小林 本当に、いいタイミングで役をいただけました。僕にとっては、アルスラーンを見れば自分の成長具合がわかる。ひとつ、自分にとっての指標みたいな役です。ずっと大切にしていきたいです。作品自体も、近年稀に見る、老若男女、誰でもが平等に楽しめるものですし、本当に、物語を最後まで描き切ってほしいなという気持ちは、僕も浪川さんと同じです。宝物だと思っている役と作品なので、最後まで丁寧に演じきりたい。原作が完結したあかつきには、そこまでアニメ化されたらうれしいです。たとえ何歳になろうと、殿下を演じきりたいと僕は思っているんですよ。最後まで、アルスラーンと一緒に歩んで行きたい。『アルスラーン戦記』は僕にとってそんな作品です。
ーーまずは王都奪還の日を、楽しみにしております! ありがとうございました!