STORY

BACK GROUND

 

 南には大海を臨み、北にダルバンド内海が広がる大国・パルス。第18代国王・アンドラゴラス三世が誇る圧倒的な武力により、その名を轟かせるこの国だが、しかしその威光は決して軍事力にだけ頼ったものではない。
 パルスの豊かさを象徴するその最もたるもの――それは、国の中央を東西に貫く、一本の道である。「大陸公路」と呼ばれるこの街道には、東西からさまざまな物品と人が流れ込み、パルスとその中心都市である王都エクバターナに、多大な豊かさをもたらしている。またパルスの南部――大海に面した港湾地帯には、ギランを初めとする港町が点在し、盛んな交易が行われている。
 もちろん、そんなパルスの豊かな大地を、周辺諸国が指をくわえて見ているわけがなかった。国の東側には、パルスの権益をねらう3つの国が位置している。北東には、かねてよりパルスと幾度も戦いを繰り返してきた歴史を持つトゥラーン。真東には「大陸公路」における徴税権と交易権をねらうチュルク。そして南東には、かつてここに存在していたバダフシャーン公国がアンドラゴラス三世の手で併合されて以来、国境を接することになったシンドゥラ。その国境地帯では小競り合いが今でも続く。
 国力の面ではパルスに劣るこの三国だが、物語開始時点より5年前、彼らは同盟を結び、パルスに攻め込んだことがあった。幸いそのときは、知将・ナルサスの活躍により、同盟が瓦解する形で紛争が決着。大きな戦へと至らずにすんだが、しかしここに来て、また新たな紛争の火種が生まれていた。
 その火種とは、パルスの北西に位置するルシタニア。同じく北西にあったマルヤムを攻め落とした彼らは、続けてパルスへの侵攻を開始。『アルスラーン戦記』は、その戦いのまっただ中――アトロパテネの会戦と呼ばれる戦いから、幕を開けることとなる。

パルス

本作の主な舞台となる王国。首都はエクバターナ。大陸を東西に結ぶ800ファルサング(約4000キロメートル)の交易路「大陸公路」の中間に位置しており、通過する隊商から得られる通行税などによって、豊かな財政を誇る。土木・工芸などの技術、識字率に代表される文化の水準は、他国に比べてかなり高い模様。

エクバターナ

パルスの王都。高く堅固な城壁に守られた、東西1.6ファルサング(約8キロメートル)、南北1.2ファルサング(約6キロメートル)に及ぶ広大な都市。9ヶ所の城門は鉄の扉で二重に守られ、外敵の侵入を許さない。内部は高度な都市計画に沿い、整然とした美しい街並みが作られている。

ルシタニア

パルスの西北方、マルヤム王国を越えた土地にある国。「西方教会」という、イアルダボート教の中でも、異教徒の存在をまったく認めない、強硬路線の宗派を国教としている。

マルヤム

パルスの西北方に存在した国。古い文化を誇るも、土地が痩せており、財政的にはあまり豊かではなかった。イアルダボート教を国教とする国のひとつだが、異教の存在を認める穏健派が主流で、外交も盛んだった。同じイアルダボート教の国だが、強硬派の西方教会が支配するルシタニア王国に侵攻され、滅びる。

シンドゥラ

パルス王国の南東方にある、カーヴェリー河の対岸に位置する国。主要産品は象牙、革製品、青銅器。

トゥラーン

パルス王国の北方に広がる、草原地帯にある国。「草原の覇者」と呼ばれ、パルス王国とは長年にわたり敵対関係にある。遊牧や、他国に攻め入っての略奪で国を成り立たせている。軍の野戦における強さは特筆に値する。主要産品は馬。

チュルク

パルス王国の東、シンドゥラの北、トゥラーンの南に位置する山岳国家。万年雪と氷河のある高い山と、そのあいだに点在する盆地や谷間によって、複雑な国土が形成されている。それゆえ、外敵の侵入には強い。遠い昔までさかのぼれば、チュルク人はトゥラーン人と祖先を同じくするという。

ダイラム

パルスの北方に位置する地域。北と西は内海に面し、南と東は山地のため、独立性の高い土地である。ナルサスの領地であったが、彼がアンドラゴラス王の不興を買ってからは、国王が直接治める土地となった。

セリカ

大陸公路の東の端、パルス王国のはるか東方に位置する国。高度な文明と、独特な文化を持つという。主要産品は絹、陶磁器、茶、紙。

フゼスターン地方

パルス王国の一地方。ミスラ神の神殿がある。

シャーオ(国王)

パルスの国王を指す。パルスの国王は、伝説にある英雄王カイ・ホスローの末裔であるとされる。

エーラーン(大将軍)

パルス王国軍の最高指揮官。国王の信任を受け、全軍を率いる。国王みずから戦場に出る際には、副将を務めることが多い。

マルズバーン(万騎長)

パルス王国軍における位。文字通り、一万騎の騎馬部隊を率いる指揮官に与えられる。万騎長自身も、一騎当千の武勇を誇る勇者である。アンドラゴラス王の元には、一二名の万騎長が仕えている。なお、ひとつ下の位として「千騎長」もある。

マルダーン(戦士)

パルス王国の勇者をたたえる称号のひとつ。実践を経験した者が名乗ることを許される。

シールギール(獅子狩人)

マルダーンと同じく、パルスの勇者をたたえる称号のひとつ。獅子を倒した経験のある者が名乗ることができる。アンドラゴラス三世はわずか13歳にしてその資格を得たという。

イアルダボート教

ルシタニア王国、マルヤム王国の国教。イアルダボート神を「唯一絶対の神」としてあがめる。信徒のあいだでは平等を認めるが、異教徒はこの世に存在することすら認めない。

ミスラ神

パルスの神話に登場する神。契約と信義をつかさどるとされる。千と万の耳を持ち、人間の世界はもちろん、神々の世界についても、すべてのことを知っているのだという。雄牛の首に短剣を突き立て、またがる若者としてあらわされる。

カーヒーナ(女神官)

神殿で修行し、神の行いにまつわるもろもろを司る資格を得た女性のこと。

アシ女神

パルスの神話に登場する美と幸運の女神。処女の守護神でもある。

ジン(精霊)

自然の中にあるが、普通の人には感じることができない存在。修行を積んだ神官などは、水晶の笛などを用いてこれらと会話することができるとされる。夕日が沈み始めるまでは目を覚まさないようだ。

ゾット族

パルス地方の中部から南部にかけて広がる、砂漠や岩山で生活する遊牧民。荒々しく勇猛で、傭兵や盗賊団として活動することが多い。

聖賢王ジャムシード

古代、パルス地方を治めていた王。蛇王ザッハークに殺されたといわれている。

英雄王カイ・ホスロー

パルスの初代国王。蛇王ザッハークの恐怖支配を打倒した、パルス史上において並び立つもののない英雄。その功績を称える「カイ・ホスロー武勲詩抄」も、人々のあいだでよく知られている。

聖剣ルクナバード

雄王カイ・ホスローの愛用したとされる宝剣。「カイ・ホスロー武勲詩抄」には「鉄をも両断せる宝剣ルクナバードは/太陽のかけらを鍛えたるなり」と歌われている。

単位

この世界の長さの単位は次の通り。1ファルサングで、およそ5キロメートル。1アマージは約250メートル。1ガズは約1メートル。


参考:田中芳樹、らいとすたっふ『アルスラーン戦記読本』(角川文庫)


アルスラーン戦記